真のグローバルスキルとは? 〜スーパーグローバルハイスクールの取り組み〜

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2017.07.25
by 鈴木 郁斗 0
文科省が指定するグローバルリーダー育成強化指定校(スーパー・グローバル・ハイスクール)の一つである京都の高校では、未来のグローバル人材を育てるべくさまざまな取り組みがされております。

今回弊社では、これまでの海外研修ノウハウを活かして、同校が8月に米国ロサンゼルスで行われる現地企業との連携による海外研修プログラムを開発提供させていただいているのですが、それに先駆けて学生たちに伝えたい 「真のグローバル人材に成長するために必要なこと」を事前研修にて行ってきました。

このプログラムでは、現地企業でのビジネスワークショップがメインの活動になり、今回は以下の5社の協力をいただき、高校生が現地企業から与えられた任務を遂行し、プレゼンテーションを行うという実践型学習を企画しています。

ー現地協力企業(敬称略・順不同)ー
●ロサンゼルスドジャース(スポーツ/エンタメ)
●ロサンゼルスタイムズ(メディア/新聞社)
●日本航空ロサンゼルス支店(航空/ツーリズム)
●ロサンゼルス交通局(交通)
●Union Bank(三菱UFJ銀行米国法人)

生徒たちには、各企業から課題が与えられ、現地での活動初日に行う最初のプレゼンテーションに向けたリサーチや資料作りに取り組んでいます。

また、このプログラムでは、ビジネスワークショップの他、現地企業の訪問、日系人の歴史に関する学習、アメリカでのホームステイや現地の学生との交流など、様々な人との関わりの中で、短期間で豊富な経験を得ることを目的としています。

事前研修では、改めてこの活動の目的を認識し、個々の目標設定を明確なものにするためのワークショップを行いました。

目次

1 なぜやるのか?
2 単なる”体験”ではない、成果が問われるプロジェクト
3 最も重要なのは英語力ではない
3.1 日本の文化、歴史を語れるようになること
3.2 ”Who am I”を語れるようになること
4 変化の時代、若者が持つべきキャリア感とは?

なぜやるのか?

このプログラムは、中高生向け海外研修の一般的なスタイルである語学研修やホームステイなど、語学習得を目的としたものではなく、「将来グローバルに仕事をする自分像を形成する」という目的のもとに企画しています。
グローバルで仕事をする自分像を形成するには、当然海外の労働環境や、異人種間でのコミュニケーションを経験する必要がありますが、そのさらに根本に、「なぜそれをやるのか?」を自身の深い部分にある動機として持つことが大前提になります。
日本の国際競争力の低下や、グローバル人材として持つべきスキルといった理屈を説明しても、高校生の心にはなかなか響きません。そこでわたしたちは”楽しいこと””ワクワクすること”といった、純粋な感情に響く文脈で伝えることを重視しています。
これは、高校生に限ったことではなく、私達大人にも、実は最も必要なことなのかもしれません。

単なる”体験”ではない、成果が問われるプロジェクト

ビジネスインターンでは、チームごとに企業から課せられた課題をこなすプロジェクトに取り組みますが、この活動を通して
■英語力
■コミュニケーション力
■チームワーク
■主体性
■プレゼンテーションスキル
■質問力
■プロジェクト管理能力 ・・・etc
グローバルリーダーとして、もとより社会人としての基礎スキルを身につけることを目的としています。

今日のワークショップでは、これら”仕事力”のうち、
■プロジェクト管理能力
■コミュニケーション力
■リサーチ力
■質問力
■個々の強みの活かし方
■概念化能力
について理解し、チームで議論し、具体的な目標設定を行いました。

これから実際にプロジェクトを実践していく中で、実践を通して体得します。

最も重要なのは英語力ではない
研修で達成したい目標を掲げるなかで、多くの生徒は「英語力の向上」を目指しています。当然、英語力は重要なスキルですが、それ以前に認識してもらいたいことがあります。今回は、こんなお話をしました。

日本の文化、歴史を語れるようになること

自国を語れずして、真グローバル人材にはなれません。
海外で多国籍の人と話をすると、私達日本人は、全く自国のことを知らない/考えていないということに気づくことがあります。
自分たちの国がいかに素晴らしいか?という議論をすると、他国の若者に比べ、格段にプレゼン力が小さいことに気づきます。
逆に、海外の人のほうが、日本をよく知っていたり、ということも。例えば、南アジアや中東では日本のドラマ「おしん」が大人気ですが、おしんを見た外国人は、日本人の忍耐強さ、根性、真面目さといった姿に心をうたれ、そこに日本/日本人のイメージを持っています。
相対的に見ることで初めてその価値がわかることがたくさんあります。海外での多国籍交流を通して日本を客観視することで、国内では気づかなかった日本の魅力を知り、日本人としての誇りとモチベーションを再構築してほしいと考えています。

”Who am I”を語れるようになること
そして最も重要なのが、自分自身のストーリーを語れるようになること。これも英語力以前の課題です。
“謙譲と謙遜”の文化の中で育った私たち日本人は、自分の意見を主張するということに慣れていません。しかし、自分の意見、自分の長所、考え方、、、”I”を主語にした意見や考えを自ら発信ができなければ、自分を知ってもらうことができません。もちろん、海外において日本人の奥ゆかしさが武器になることもありますが、グローバルという土俵に立ったときに、存在感を示すことすらできないこともあるということを知っておく必要があります。海外では、集団の中で他人を尊重することと同じくらい、自分の存在を自分で示すことが重要な局面も多いのです。

また、集団よりも、個を重要視されることが多いのも、海外の多くの国の文化のひとつです。例えばビジネスの世界では、日本では「◯◯株式会社のXX長」といった会社の看板や、△△大学出身といった大学のネームブランドが個人のステータスを示す指標になることも多いですが、海外では有名企業の肩書も、日本国内の大学のブランドも、日本ほどに大きな意味を持ちません。
それよりも、個人がどんな考え方を持ち、どうなることを目指しているのか、どんなことに興味があるのか?どんな価値観を持っているのか?といった個の考えや主張こそが、その人のアイデンティティ、ストーリーとして尊重され、コミュニケーションの核になります。

変化の時代、若者が持つべきキャリア感とは?

「第四次産業革命の到来」「AIが人間の仕事を奪う」といった話題が飛び交うようになり、教育業界でもよく聞かれるようになりました。
確かに、これからの若者が歩むキャリアの形はこれまでとは全く異なるものになるでしょう。
しかし、単にこれに危機意識を持つ/持たせるよりも、自分のアイデンティティの核となる価値観と理想を持ち、時代の変化の中でいかに価値のある人生・キャリアを歩むかをポジティブに考え、自分の言葉で語り、行動できるようになることが重要です。

文明の進化で、誰もがスマホで世界と繋がれるようになりました。
仕事の生産性が上がり、面倒なことはテクノロジーが代行してくれるので、好きなことに使える時間もどんどん増えていきます。
時間の余裕ができると、”生きる意味”や”人間らしさ”を深く考える余裕ができます。
その時に、自分のストーリーを語れないこと、指針となる価値観や人生観がないことは、もしかするとテクノロジーの進化に付いていけないことと同じくらい悲しいことなのかもしれません。

今まで以上に”個”が際立つ時代、そんな時代に私達がどんな視点を持って人生・キャリアを歩んでいくべきなのか?
高校生たちが大人になった時、「人生と仕事が楽しい!」と胸を張って生きていられる人であってほしい、後世の子どもたちに伝えてほしい、そんな人材を一人でも多く世に出すための教育に貢献したい。これが私達が目指すグローバル教育のゴールです。

今回の参加者は33名。モチベーションの温度差はあるものの、この経験でキャリア感の土台、心の底から感じる”楽しいこと””ワクワクすること”の種、自分の指針を見つけてほしいと願っています。


鈴木 郁斗
株式会社メルサインターナショナルジャパン代表取締役。2009年に単身渡米、2010年にカリフォルニア州ロサンゼルスにてMelsaInternationalを設立。カリフォルニア大学との共同受注による文部科学省G30関連の大学生グローバル教育プログラム、日本企業の新人研修など大学生・社会人向けのグローバルビジネス研修プログラムの企画運営に従事。東京・ロサンゼルス・サンフランシスコを拠点に、大学生/若手人材を対象として国際教育・キャリア支援事業を運営する。

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