2017.02.21
by 森田 雄志 0
森田雄志&黒田豊
1988年よりカリフォルニアに在住。
Stanford大学エンジニアリング・マネジメント修士。SRI Internationalとその関連会社に約18年在籍し、現在はCardinal Consulting マネージング・ディレクターを務める。
著書に、「なぜ日本企業のビジネスは、もったいないのか」(2016年、日本経済新聞出版社)、「シリコンバレーのコンサルタントから学ぶ、成功するイノベーション」(2014年、幻冬舎)など。
皆さんは、シリコンバレーにどういった印象を抱いているだろうか。
シリコンバレーは、日本でもビジネスの発信地として広く認識されており、インターネットや書籍には、「シリコンバレー流○○」「シリコンバレーで実践される世界最先端の○○」という言葉が並ぶ。
私のシリコンバレーの印象は、世界最先端の企業で働きたい人や、起業を目指すやる気に満ち溢れた人が集まり、「シリコンバレー流」の「特別な」仕事方法で、何か凄いことをやっている….という感じで、漠然としていた。
しかし、黒田さんの著書を読み、純粋な疑問をぶつけてみた結果、ある意味「特別ではない」シリコンバレーを発見した。
目次 [非表示]
1 見逃していた「シリコンバレーの環境」 1.1 なぜシリコンバレーではユーザー視点のサービスが立ち上がるのか 1.2 なぜシリコンバレーで働く人は「完全燃焼」するのか 1.3 どうやってネットワークが生まれるのか 2 環境が特殊な「普通」を生み出している 3 シリコンバレー環境
見逃していた「シリコンバレーの環境」
シリコンバレーの人々が、特別な方法を知っているから革新的な商品を生み出せる。そんな印象を抱いている人も多いと思うが、ある重要なポイントを見逃している。
それは、シリコンバレーの「環境」だ。
黒田さんとの会話の中で私がシリコンバレーに抱く印象が変わった瞬間があったので、いくつかの会話をピックアップしてみた。
1. なぜシリコンバレーではユーザー視点のサービスが立ち上がるのか
もちろん、極端なテーマを付けたことは分かっているが、日本ではユーザー視点のサービスが生まれにくい環境があるという。
黒田さんは「日本は技術的なイノベーションを起こす事が苦手、という事ではない。ただ、日本は技術革新に留まって、それがユーザーに価値を提供する仕組みを作ること ”ビジネス・イノベーション” ができていない。また、開発する部署とユーザーと接点を持っている部署が分かれているので、どうしても製品が技術視点になりやすい。」と指摘されていた。
(確かに、日本の電化製品なんかが良い例のように感じる。電子レンジにはボタンがたくさんあり、例え高性能だったとしても、その機能を使う人はほとんどいない。)
そこで私が、
「シリコンバレーでは、ユーザーと接点がある人や技術チームなど、さまざまな職種の人をチームに入れて開発する工夫をしているのか?」
と質問をしたところ、返ってきたのは私の予想とは異なる回答だった。
(黒田さん)「もちろん、多様な人をチームに入れる工夫もしていると思うが、それ以上に、自然とユーザー視点が生まれるような環境も、大きな要因である。
どういう事かというと、CEOのアイデアが発端で会社が立ち上がることが多く、そのアイデアはユーザーのニーズから生まれているものが多い。ベンチャー企業を支援する環境があるので、自然と顧客視点のサービスを持った企業が大きくなっていくのだ。
さらに、会社が立ち上がった段階では少人数でやるので、必然的にユーザー視点を会社内で共有していることが多い。これらの理由で、顧客視点になろうとしなくても、ベンチャー企業を支援することで、自然と顧客視点のサービスが発展する。」
自然とユーザー視点になる?と驚く人もいるだろう。
もちろん全てのスタートアップではないだろうが、CEOのアイデアを元にスタートアップが立ち上がる環境があれば、必然的にユーザー視点になるというのは納得ができる。
また、VCやインキュベーターの数も多いので、スタートアップの数も多いのだ。
2. なぜシリコンバレーで働く人は「完全燃焼」するのか
なぜシリコンバレーの人々が、仕事に対して完全燃焼で取り組むのか、考えたことはあるだろうか。
私は、将来起業したい人や、世界のトップ企業で働きたいモチベーションが高い人が集まっているから、と考えていたのだが実はそれだけはないという。
(黒田さん)「会社としても個人としても、シリコンバレーで働く上で厳しい環境に置かれていることも一つの要因。
会社としては、しっかりと黒字が出せるか、ベンチャーの場合でいけば、ちゃんと設定したマイルストーンをクリアしているかがとても重要。クリアしないと、次のラウンドのお金が入らない。
個人でも、会社に対してきちんと価値を提供しているか。
していないと、会社の業績が悪くなくても、クビになる可能性がある。
こういった厳しい環境下でのプレッシャーがあるから、みな「完全燃焼」する、せざるを得ない。
日本は逆に、上司の顔色をうかがうほうが大事で、その結果、不完全燃焼になってる人がとても多い。」
自発的なモチベーションももちろんある上だが、実はシリコンバレーには会社としても、個人としても成長しなければいけない、厳しい環境であることも事実だ。
この厳しい環境が、常に何か新しいものを生み出すためのプレッシャーとなっているのだろう。
3. どうやってネットワークが生まれるのか
シリコンバレーではネットワーキングが盛んに行われ、仕事ではそのネットワークを使ってビジネスが広がっていくというのは、よく聞く話だ。
それでは、そのネットワーキングはどのように行われているのだろうか。
(黒田さん)「もちろんセミナーの後に懇親会などもある。
しかし、雇用が流動的なので、前にいた会社でできた人脈で繋がって行くことが多い。
ネットワークに関しては、ビジネスに活かすという目的の他に、小さい会社で潰れるリスクもあるので、転職をする時のコネクションが重要という一面もある。」
シリコンバレーで成功を目指す人間が、朝食会みたいなお洒落なイベントを開き、自分の成功のために人脈を広げているとしか考えていなかった。
雇用が流動的なために、様々なネットワークが築かれるという環境もあるのだ。
環境が特殊な「普通」を生み出している
シリコンバレーに関して私が見逃していたポイントには共通点がある。
それは、マクロ的な視点で見ると、シリコンバレーの企業を取り巻く「環境」がさまざまなものを生み出しているという点だ。
スタートアップを支援する仕組みがあれば、顧客視点のサービスが生まれる。
外部からの厳しい目にさらされていれば、継続的にチャレンジをしていかなければいけないのは自然なことだ。
雇用が流動的であったら、必然的にネットワークが広がる。
もちろん、シリコンバレーで働く人のモチベーションが高いからこそ、という事もあるだろうが、既に自然とビジネスにプラスの効果が生まれるような環境が出来ているのだ。
シリコンバレーという特殊な環境では、上に挙げたような他から見たら特別なことが、ある意味「普通に」生まれる。
厳しい環境ではあるが、そんな特別な環境ができあがっている。
シリコンバレー環境
結局のところ、いたるところで言われている通り、シリコンバレーは環境が特殊なのだ。
今回注目したのは一部分だが、様々な側面で、ビジネスにプラスの影響を与える環境があるのだろう。
私は、シリコンバレーの企業はこんな方法を使っている、のような「シリコンバレー流」方法論にばかり注目して、環境要因がイノベーションを促進していることを見逃していた。
ただ、人間や企業の高い志が、特別な環境を生み出していることは間違いない。
そして、その環境下において、他の場所から見たら「特殊」と思えることが、地域全体で「自然」と行われているのだろう。
これからは、シリコンバレーを参考にするときは、一部分をかいつまむだけでなく地域全体で考えることも必要だ。シリコンバレーの特殊に映る現象の背景には、どのような事情があるのか。
シリコンバレーのビジネスを取り巻く特殊な環境も合わせて、シリコンバレーを追っていきたい。
by森田 雄志
早稲田大学政治経済学部4年、リクルートジョブズ入社予定。アルバイトやインターンの経験からHR分野に興味を持ち、大学では人的資源管理を専攻。組織論やキャリア形成に興味を持つ。シリコンバレーでの発見を記事にしたブログを公開中。