シリコンバレーに学ぶデザイン思考と起業家マインド  〜第7回メルサゼミUSアントレナーシッププログラム 開催レポート〜 

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2017.03.25
by 鈴木 郁斗

起業家マインドやグローバルビジネスの知識、コミュニケーション力の育成を目的に弊社が主催する、「メルサゼミUSアントレプレナーシッププログラム」。2013年の開始から今回で7回目の開催となったプログラムも、東京での事前研修、ロサンゼルス、シリコンバレーでのミッションをこなし、無事すべての工程を終了しました。

本プログラムは、弊社(米国法人MELSA INTERNATIONAL LLC)がこれまで、文部科学省グローバル人材育成推進事業採択大学を含む日本国内の大学や高校、企業に対し米西海岸(ロサンゼルス/シリコンバレー)で提供してきた研修プログラムの実績や現地でのネットワークを生かし、海外就労や起業といったキャリアを視野に入れる大学生を対象に年に2回開催するもので、様々な大学、学部や専攻、学年の学生が集結し、プロジェクトを進行していきます。

今回は、早稲田大学、上智大学、立教大学、東京外語大学、法政大学から6名のメンバーが集まり、東京での2ヶ月の事前研修を経て、アメリカ西海岸シリコンバレー/ロサンゼルスを舞台にプロジェクトを遂行しました。

第8回USアントレプレナーシッププログラム

目次 

1 事前研修〜新たな価値創造「デザイン思考」を極める2ヶ月〜
2 渡航〜最初の舞台はシリコンバレー〜
2.1 訪問先(順不同)
2.2 JINS Eyeware US Inc.
2.3 Project H Design/Girls Garage
2.4 Global Brain(ベンチャーキャピタル)
2.5 Yamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley(ロボティクス/IoT/ベンチャー投資)
2.6 デザイン思考とイノベーション(SAP、スタンフォードDSchool)
2.7 SAP
2.8 —スタンフォードDSchool—
2.9 有名企業訪問(Facebook本社、Google本社)
3 アメリカ第二の舞台、ロサンゼルスへ
4 プログラムのフィナーレ プレゼンテーション

事前研修〜新たな価値創造「デザイン思考」を極める2ヶ月〜

事前研修では、今多くの企業で新たなビジネスモデル創出のフレームワークとして取り入れられている「デザイン思考」に着目し、デザイン思考の基礎知識の習得、実践を通して、デザイン思考による顧客視点の価値創造のプロセスを学びました。事前研修では「訪日外国人が東京で不便に思う問題を解決する」というテーマのもと、デザイン思考の5つのプロセス「観察・共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」を実際に行うなかで、机上論だけでは理解できない学びを体験しました。特に、個人の思い込みによる仮説と、実際に街でインタビューや観察を行うことで得た洞察から明らかになった“真のニーズ”に大きな違いがあることを、実際のワークで体得する機会になりました。

渡航〜最初の舞台はシリコンバレー〜

本プログラムでは、Googleを始めとしたシリコンバレーの有名企業を訪問することが目玉の一つになっていますが、今回も現地の企業や大学の方々に多大なご協力をいただき、様々な視点でそれぞれの今後のキャリアを形成するために必要な知識やマインドを習得することができました。

訪問先(順不同)

①Project H Design/Girls Garage (デザインコンサルタント/教育機関)

②JINS Eyeware US Inc(小売/デザイン)

③Global Brain (ベンチャーキャピタル)

④Yamaha Motor Ventures and Laboratory Silicon Valley (ロボティクス/IoT/ベンチャー投資、他)

⑤SAP Silicon Valley(ソフトウェア/デザイン思考)

⑥Stanford DSchool(デザイン思考)

⑦Google本社(最先端ビジネス/働き方)

⑧Facebook本社(SNS/労働環境)

訪問先では、起業家マインド、ソフトウェア開発、IoT/ロボティクス、金融・投資、デザイン思考、働き方/労働環境、小売/マーケティング、教育 など、様々な業界でシリコンバレーで活躍する経営者や起業家、教育者と面談させていただき、多面的な観点で参加者それぞれの今後のキャリア形成に役立つ知識とマインドを吸収させていただきました。

いくつかご紹介します。

JINS Eyeware US Inc.

おしゃれで機能性のあるメガネのJINSは、アメリカでも市場を広げています。今回は、サンフランシスコダウンタウンの中心部にある、同社US支社の副社長/マネージャーの木村氏を訪問させていただきました。シリコンバレーといえば、世界最先端の技術/ビジネスでグローバル企業がシノギを削っているイメージがありますが、ここサンフランシスコはファッションやデザインの領域でも注目されており、シリコンバレーとセットでイメージしがちな”IT”とは違った分野のサービスも成長しています。JINSもそんなアメリカ西海岸で成長を続ける、注目すべきグローバル企業です。

そのビジネスモデルや、魅力的なプロダクトデザイン、グローバル戦略のレベルの高さはさることながら、アメリカでのビジネスで実績を作りながらも、少し異色かつ魅力的なキャリアデザインの考え方で「幸せな働き方」を実現した木村さんのキャリアに対する考え方に、一同深い感銘を受けました。かつて、大手外資系コンサルティング会社でコンサルタントとしてバリバリ活躍していた木村さんは、「自分や家族が幸せになるための働き方」を最優先に仕事を決め、結果、ビジネスでも成果を残し、充実した人生を送っているそうです。通信テクノロジーの進化や時代の変化と共に商習慣や働き方も変化する中で、私たちはグローバルで様々な働き方を選択することができます。日本にいると知る機会が少ない、就職や働き方の選択肢についても幅広い知識を得ることができ、また「自分自身の気持ちに正直に生き方や働き方を考えていこう」という木村さんの考えに触れ、初日からとても有意義な時間をいただくことができました。

Project H Design/Girls Garage

サンフランシスコの北、Baekeleyにあるデザインコンサルティング会社「Project H Design」社が運営する、子供の創造力教育を行う教育施設”Girls Garage”を訪問。ここでは子供、特に女の子がクリエイターとして社会で活躍できるように、発想力、想像力、ものづくりの教育を行っています。ディレクターのChristina Jenkinsさんを囲み、デザイン思考や創造力の重要性について深く議論させていただきました。

Global Brain(ベンチャーキャピタル)

KDDIをはじめ、日本企業のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)のファンドを運用するVC、Global BrainのシリコンバレーブランチマネージャーZak Murase氏から、投資家が注目しているスタートアップや、最新のテクノロジー/ビジネスに関する情報、シリコンバレーで投資家として働く実情など、貴重な話を聞かせていただきました。当然ながら投資家は常に膨大な情報を収集する必要があり、日々努力していますが、当然ながら日本語よりも英語の情報量のほうが比較にならないほど多く、世界の状況を知る上で「英語の情報収集力」を身につける重要性を再認識しました。そして、シリコンバレーを中心に起こるテクノロジーの進化は、もはや私達の想像をはるかに超えた域にある現状を知り、これからの経済の行く末を深く考え直す機会にもなりました。

Yamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley(ロボティクス/IoT/ベンチャー投資)

メルサゼミに多大なご協力をいただいているYMVSV C.E.O.の西城氏から、新規事業開発のマインドセットや大企業内での新規事業推進の過程についてリアルなお話を聞かせていただきました。”世界をもっとカラフルに”という、多様性のもとに構築されるシリコンバレーエコシステムの中でプレイヤーとして日々戦う西城氏の思い、そして”日本ではなく、世界を主語にビジネスを語るべし”という、グローバルビジネス/ベンチャースピリットの真髄に触れ、一同大いなる刺激を受けました。西城氏のように技術力・経営能力・起業家マインドを持ち、世界を土俵に戦える日本人起業家は、残念ながら他のアジア諸国に比べて多くはありません。しかし、同じ日本人であるヒーローの活躍を目の当たりにし、マインドに直接触れることで、これから社会に出て世界を牽引していくリアルな自分像をイメージする貴重な機会となりました。

デザイン思考とイノベーション(SAP、スタンフォードDSchool)

今回のメインテーマ「デザイン思考」にちなみ、シリコンバレーではデザイン思考に深い関連のある企業と教育機関を訪問しました。ビジネスの世界においてはこれまでMBAが重宝され、MITやハーバードを始めとした東海岸のビジネススクールの人気がありましたが、昨今特に西海岸ではMFA(Master OF Fine Art=芸術系修士号)の人気が高騰しており、アクセンチュアやマッキンゼーといった大手コンサルティング会社によるデザイン会社の買収が活性化していることを見ても、今後ビジネスにおけるデザインスキルがさらに重要視されていくことは間違いないと考えられます。

これは、今までの「論理的思考」(ロジカルシンキング)が最も必要と言われてきたビジネスの世界に変化が訪れ、感性や「ストーリー性」といったデザイナー的アプローチ、「デザイン思考」の重要性が謳われるようになったことに起因しています。

SAP

今回のメインテーマ「デザイン思考」を学ぶ上で、SAPの経緯を知ることは欠かすことができません。SAPはドイツのソフトウェア企業ですが、2004年当時の会長Hasso Plattner氏自らがIDEO社David Kelleyの「デザイン思考」の論文に感化され、シリコンバレーにSAP Innovation Centerを設立、同時にIDEOから35人のデザインコンサルタントを連ね、新規事業開発/組織変革に取り組み、クラウドサービスをベースとしたサービスの開発により当時低迷していた売上を1.4兆円から2.7兆円まで成長させることに成功し、デザイン思考の成功例として最も有名な企業として知られています。Palo AltoにあるSAP Innovation Centerは、シリコンバレーの外国籍企業としては最も規模の大きいことで知られており、社内インテリアのデザイン、働き方、ミーティングのやり方など、至る所に創造力を掻き立てる仕組みが施されています。

—スタンフォードDSchool—

スタンフォード大学 DSchool(The Hasso Plattner Institute of Design at Stanford)は、2004年に前述のSAP会長のHasso Plattner 氏が当時スタンフォード大学でデザインを教えていたIDEO創業者のDavid Kelley氏に35億円を出資して設立された教育機関です。ここでは、あらゆる学部の学生がデザイン思考プロセスを用いて新たな価値をもつサービス/製品の開発に取り組んでおり、実際に事業化したサービスも多く存在します。デザイン思考を牽引する企業・大学の環境を目の当たりにすることで、デザイン思考をより深く理解することができるようになりました。

有名企業訪問(Facebook本社、Google本社)

今回はシリコンバレーにあるFacebook本社、Google本社を訪問し、社内の見学と、社員の方と交流する機会をいただきました。両社ともに、圧倒的な敷地の広さ、社員に提供される無料サービスの数々、社員のモチベーションをアップさせるための労働環境が充実しており、スケールの違いに圧倒されました。Googleでは社員の方の計らいで社員食堂で夕食をいただきながら、キャリアや働き方について議論し、シリコンバレーで活躍する方のリアルな現状を知ることで、自分たちの理想のキャリアや働き方と深く向き合う貴重な機会になりました。

アメリカ第二の舞台、ロサンゼルスへ

一行はサンフランシスコから約1時間のフライトでロサンゼルスに到着。束の間の休日を挟み、ロサンゼルスでは、これまで2ヶ月間習得してきたデザイン思考の実践プロジェクトと、その過程を発表する2回のプレゼンテーションが待っています。

ロサンゼルスでは、ダウンタウンにあるコワーキングスペースを拠点に活動開始。これまで東京とシリコンバレーで学んできた「デザイン思考」をベースにした実践プロジェクトが始まりました。今回はCity of Los Angeles(ロサンゼルス市)が推進するNPOから、「ダウンタウンにおける自転車盗難の問題解決」の任務を与えられ、現場の調査・仮説設定・問題定義から解決しうる新規サービスの創造に取り組んでいきます。まずは情報収集と調査、仮説設定から。盗難多発エリアとその地域の治安や所得層など他要素との相関性を見つけたり、フィールドリサーチで実際に起きている事実を調査したり、自転車ユーザーにインタビューしたりと、あらゆる手段で問題の本質を探っていきます。

問題定義に続き、問題を解決するためのサービス/製品のアイデアを形成していきますが、斬新なアイデアを出すことは容易ではありません。プレゼンテーションが翌日夜に迫る中、睡眠時間返上でギリギリまで頑張りました。

プログラムのフィナーレ プレゼンテーション

現地での活動の集大成は、デザイン思考による問題解決の過程を発表するプレゼンテーションです。1回目はロサンゼルスダウンタウンの起業家コミュニティに向けたプレゼンテーション。

慣れない言語、慣れない環境の中でのプレゼンテーションでしたが見事に完遂し、大いに盛り上がり、

質疑応答/ディスカッションでは、参加者からの質問、アイデアなどが飛び交い、賑やかなイベントになりました。

イベント終了後は寿司とワインを囲み、参加者同士の交流(meetup)を行い、遅くまで盛り上がりました。

そしてついに最終日。

メルサゼミの深い交流のあるSanta Ana College(カリフォルニア州オレンジ群)を訪問し、教授陣と各国からの留学生に向けたデザイン思考のプレゼンテーションを行いました。

前夜のプレゼンの反省点を反映し、さらに質の高い情報提供ができました。ここでも、様々な観点での質問やアイデアで盛り上がり、後半のディスカッションでは、様々なバックグラウンドを持つ世界各国の学生とグループディスカッションで充実した議論が続きます。初対面で若干の緊張がありながらも、議論を共にすることで親近感が生まれ、充実した交流の機会となりました。教授からも、良い評価をいただくことができ、満足のいく結果で全ての行程が終了。

社会では今、世界を舞台に活躍することができる人材が求められています。それは、決して英語力やプレゼンスキルといった単純なものだけではなく、多様な価値観を受け入れ、本質的な問題を理解し、自ら主体的に行動し、チームに貢献できる人間力、そして失敗を恐れず、困難に挑戦できるアントレプレナーシップ(起業家精神)です。

1月の事前研修スタートから2ヶ月半、当初はチームの中で控え目だった学生も後半には自ら議論のリーダーシップを取るようになるなど、短期間で大きな変化が見られました。また今回は、英語が堪能な学生、テクノロジーに詳しい学生、チームの調和を取るムードメーカーなど、個性のあるメンバーが集まり、多くの困難を乗り越えながらプロジェクトを完遂することができました。2ヶ月半のプログラムを通して、普段触れる機会の少ない起業家のマインドを体得し、多様な価値観を持つメンバーと活動を共にすることで、貴重な経験を得ることができたと思います。

今回のメンバーのうち数名は4月から社会人としてのキャリアがスタートします。本プログラムもおかげさまで第7回目が無事終了し、すでに社会に出ている過去の参加者によるOBのコミュニティも形成されています。社会に出ると困難に直面することもありますが、ぜひこの経験を共にしたメンバーとのつながりを大切に、これからも充実したキャリアを歩んでほしいと心から願います。

by 鈴木郁斗
株式会社メルサインターナショナルジャパン代表取締役。2009年に単身渡米、2010年にカリフォルニア州ロサンゼルスにてMelsaInternationalを設立。カリフォルニア大学との共同受注による文部科学省G30関連の大学生グローバル教育プログラム、日本企業の新人研修など大学生・社会人向けのグローバルビジネス研修プログラムの企画運営に従事。東京・ロサンゼルス・サンフランシスコを拠点に、大学生/若手人材を対象として国際教育・キャリア支援事業を運営する。

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